福岡高等裁判所 平成7年(行コ)5号 判決 1998年10月09日
控訴人
甲野春子
外一名
控訴人ら訴訟代理人弁護士
林健一郎 平田広志 八尋八郎 小野山裕治 橋本千尋
井手豊継 椛島敏雅 梶原恒夫 深堀寿美 池永満
久保井摂 城台哲 井上滋子 甲能新児 田中利美
岩城邦治 石渡一史 下東信三 津田聰夫 松岡肇
原田直子 松浦恭子 辻本育子 上田國廣 大神周一
大谷辰雄 牟田哲朗 小宮和彦 古屋勇一 前田豊
渡邊和也 古屋令枝 用澤義則 出田清志 宇治野みさえ
名和田茂生 林田賢一 堀良一 稲村晴夫 浦田秀徳
伊黒忠昭 諌山博 小島肇 山本一行 小澤清實
幸田雅弘 小林洋二 小泉幸雄 田中久敏 井上道夫
田邊宣克 安武雄一郎 松井仁 美奈川成章 都留雅昭
三浦久 吉野高幸 住田定夫 荒巻啓一 前田憲徳
河邊真史 蓼沼一郎 中村博則 秋月慎一 仁比聡平
高木健康 配川寿好 年森俊宏 安部千春 田邊匡彦
尾崎英弥 横光幸雄 馬奈木昭雄 内田省司 高橋謙一
三溝直喜 塘岡琢磨 萬年浩雄 船木誠一郎 作間功
矢野正剛 村井正昭 安部尚志 藤尾順司 八尋光秀
福島康男 福島あい子 川副正敏 山崎吉男 古本栄一
林優 吉岡隆典 堺祥子 野林信行 登野城安俊
小宮学 江上武幸 吉村拓 中尾晴一 前野宗俊
永尾廣久 中野和信 角銅立身 竹下義樹 尾藤広喜
被控訴人
福岡市東福祉事務所長
柴田高義
被控訴人
国
右代表者法務大臣
中村正三郎
被控訴人
福岡市
右代表者市長
桑原敬一
被控訴人ら指定代理人
新田智昭
外一二名
被控訴人国及び同福岡市東福祉事務所長指定代理人
深田聡
外二名
主文
一 原判決中、控訴人らの訴訟提起に基づく保護変更決定処分取消請求に係る部分を取り消す。
二 被控訴人福岡市東福祉事務所長が平成二年六月二八日に亡甲野太郎に対してした保護変更決定処分を取り消す。
三 被控訴人福岡市東福祉事務所長に対するその余の控訴及びその余の被控訴人らに対する控訴をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、控訴人らと被控訴人福岡市東福祉事務所長との間においては、第一、二審を通じて三分し、その二を控訴人らの、その余を同被控訴人の各負担とし、控訴人らとその余の被控訴人らとの間においては、控訴費用を全部控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第一 当事者の申立て
一 控訴人ら
1 原判決中、被控訴人福岡市東福祉事務所長(以下「被控訴人福祉事務所長」という。)が平成二年六月二八日に亡中嶋豊治に対してした保護変更決定処分取消請求に係る部分を取り消す。右部分に係る事件を福岡地方裁判所に差し戻す。
2 原判決中、金銭の支払請求に係る部分を取り消す。
被控訴人国及び同福岡市は、連帯して、控訴人甲野春子に対して金七五万円、同甲野夏子に対して一二五万円及びこれらに対する平成二年六月二八日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
二 被控訴人ら
1 控訴人らの控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
第二 事案の概要
一 本件は、生活保護を受給中に積み立てたいわゆる学資保険の満期保険金を収入として認定され、生活保護費減額の変更処分を受けた被保護世帯の世帯主及び同一世帯に属するその子ら(控訴人ら)が、右変更処分及びこれに先立ち市の生活保護担当職員らが右学資保険の解約を慫慂するなどした行為が違憲、違法であると主張し、処分庁である福祉事務所長に対して右変更処分の取消しを求めると共に、市及び国に対して国家賠償法一条一項に基づき損害賠償(国家賠償)を求めた併合訴訟の事案である。
二 争いのない事実等
1 当事者
(一) 控訴人ら
一審原告甲野太郎(昭和六年二月二四日生。以下「亡太郎」という。)は、その妻甲野花子(昭和一七年二月一三日生。以下「亡花子」という。)との間に、長男一郎(昭和四四年八月一四日生)、長女控訴人甲野春子(昭和四七年一一月二一日生。以下「控訴人春子」という。)、二女控訴人甲野夏子(昭和五一年一二月二七日生。以下「控訴人夏子」という。)がいるが、昭和五〇年八月六日以降、被控訴人福岡市から右の者らを同一世帯とする生活保護費を受給してきたところ、亡花子は平成三年三月一〇日、亡太郎は平成五年一月二一日にそれぞれ死亡した。
長男一郎は昭和六〇年四月、控訴人春子は昭和六三年四月いずれも福岡市内にある同じ私立の高等学校(以下「高校」と略称する。)に入学したのち、卒業したが、同夏子は平成四年四月福岡市内にある別の私立高校に入学したものの中途退学した。なお、長男一郎は、平成二年四月に高校卒業と同時に独立して右世帯から離れた。
(二) 被控訴人ら
(1) 被控訴人国は、日本国憲法及び生活保護法(以下「法」ともいう。)に基づき、生活に困窮している住民に対し、その困窮の度合いに応じて必要な保護を行い、被保護者の最低限度の生活を保障すると共に、その自立を助長すべき法律上の責務を有する。
(2) 被控訴人福岡市は、国からの機関委任事務に基づき、生活保護の実施機関である福岡市東福祉事務所を設置し、これを管理し、生活保護を実施すると共にその費用を負担しているものである。
(3) 被控訴人福祉事務所長は、生活保護法による保護等を実施する福岡市の機関である。
2 本件学資保険と本件変更処分
(一) 亡太郎は、昭和五〇年八月六日、その世帯について生活保護法に基づく保護の申請をした。これに対し、被控訴人福祉事務所長は、昭和五〇年九月二三日、右申請日にさかのぼって保護開始の決定をし、以後、亡太郎は、生活扶助及び住宅扶助等を受けることとなり、後記の本件変更処分がされる直前の平成二年六月分の保護費として合計一八万円余を受給していた。
(二) 亡太郎は、昭和五一年六月一七日、控訴人春子を被保険者とする郵政省の保険全期間払込一八歳満期学資保険(満期平成二年六月一六日、保険料月額三〇〇〇円、満期保険金五〇万円。以下「本件学資保険」という。)に加入し、その後、本件学資保険から貸付けを受ける一方、その返済をしていたが、平成二年六月一九日、本件学資保険の満期保険金のうち、右貸付けに対する弁済金等を控除した残金四四万九八〇七円(以下「本件返戻金」ともいう。)を受領した。
(三) 被控訴人福祉事務所長は、平成二年六月二八日、法四条一項及び同八条一項に基づき、本件返戻金のうち四四万五八〇七円を収入認定した上、同年七月分から同年一二月分までの保護受給額を月額九万五一七五円(ただし、同年七月分は九万五一六八円)に減額する旨の本件変更処分をした。
(四) 亡太郎は、本件変更処分を不服として、平成二年八月二一日福岡県知事に対して審査請求をし、同三年二月二五日これが棄却されたため、同年三月二八日厚生大臣に対して再審査請求をしたが、同年一〇月七日これも棄却された。
(五) 亡太郎及び控訴人らは、平成三年一二月二四日、被控訴人福祉事務所長に対し、本件変更処分の取消しを求める本件訴訟を提起し、さらに、同四年三月二六日、その余の被控訴人らに対し、国家賠償法一条一項に基づき損害賠償を求める本件訴訟を提起した(両訴訟は併合審理)が、亡太郎は、前記のとおり、原審訴訟係属中の平成五年一月二一日に死亡した。
なお、控訴人らは、控訴人ら自身としては本件変更処分について審査請求の申立て等をしていない。
三 争点
1 本件変更処分の取消しを求める訴えの適否
(被控訴人福祉事務所長の主張)
控訴人らは、亡太郎と同一世帯に属する者として、本件変更処分の取消しを求める利益(原告適格)を有するとしても、法六九条により、本件変更処分の取消しを訴求するためにはこれに先立って本件変更処分について審査請求及びこれに対する裁決を経ることを要するところ、控訴人らにおいて右審査請求等を経ていないから、本件変更処分の取消しを求める訴えは不適法である。
また、亡太郎による本件変更処分の取消請求訴訟は、生活保護法に基づく保護受給権が、当該個人の一身専属の権利であって相続の対象にはなり得ないから、右訴訟は、亡太郎の死亡により終了し、控訴人らにおいてその訴訟上の地位を承継するいわれはない。
よって、控訴人らによる本件変更処分の取消しを求める訴えは、不適法であって却下を免れない。
(控訴人らの主張)
(一) 被保護世帯に属する者の保護変更処分の取消しを求める利益ないし当事者適格
法一〇条は、保護実施の原則として「世帯単位の原則」を採用しているが、同条ただし書が、個人を単位として定めることができる旨規定していることなどからも明らかなように、法は被保護世帯においては当該世帯を構成する者すべてを被保護者としている。そして、被保護者が生活保護を受けるのは法的権利であって、保護受給権というべきものである。したがって、本件世帯を構成する控訴人らも本件変更処分の取消しを求める訴えの利益(原告適格)を有するものと解すべきである。
(二) 審査請求前置の要件の充足
訴訟提起者自身が審査請求を経ていなくとも、第三者が審査請求を経ており、両者が当該処分に対し一体的な利害関係を有し、実質的にみればその者のした審査請求が同時に訴訟提起者のための審査請求でもあるということができるような特段の事情のある場合には、処分庁(行政庁)としても、再考の機会や争点の整理を行う等の機会が与えられ、審査請求前置の趣旨は尽くされているものということができるから、当該訴訟提起は審査請求を経たものと同視して適法と解すべきである。
控訴人らは、亡太郎の子であり、同人の死亡するまで同人と同一の世帯を構成し、その世帯を単位として支給された生活保護により生活を共にし、本件変更処分の影響を直接受ける立場にあった者であって、亡太郎と一体的な利害関係にあるものということができる。また、亡太郎は、自ら本件変更処分について適法に審査請求をしたが、これは本件変更処分の名宛人である同人が、世帯を構成する家族全員のためにいわば世帯を代表して行ったものであって、実質的にみれば、同時に控訴人らのための審査請求ともいうことができるから、右審査請求には、前記特段の事情があるものというべきである。
よって、控訴人らにより本件変更処分の取消しを求める本件訴訟は、法六九条の審査請求前置の要件を充足するものとして適法である。
(三) 亡太郎の地位の承継
本件変更処分が取り消されれば、被控訴人国は、従来の支給額との差額の支払を免れ、法律上の原因なくして不当に利得したこととなり、かつ、被控訴人福祉事務所長を通じて亡太郎に対して変更前の支給額を支給すべく拘束を受けることとなる。したがって、被控訴人国は、亡太郎にその利得を返還しなければならず、これを亡太郎の側からいえば、同人は、右金額について不当利得返還請求権を有することになる。この権利の相続性は否定することができないのであって、控訴人らは、亡太郎の右不当利得返還請求権を相続することになるが、控訴人らがこの請求権を行使するためには、本件変更処分が取り消されることが当然の前提となるものであるから、右の権利を相続した控訴人らは、本件変更処分の取消しによって回復すべき法律上の利益(相続人において将来その相続に係る権利又は法律関係を訴求するために訴訟を継続していく利益)を有するものというべきであり、訴訟を承継すべき適格を有する。
もっとも、相続人が被保護者たる地位にない場合には、前記不当利得返還請求権等の相続を否定されることがあり得るとしても、控訴人らは、前記(二)のとおり、亡太郎の死亡の前後を通じて亡太郎と同一の世帯に属する保護受給権者であるから、右相続、したがって、亡太郎の訴訟上の地位の承継を否定されるべきいわれはないものというべきである。
(四) 結論
以上、いずれの点からみても、控訴人らによる本件変更処分の取消しを求める訴えは、適法というべきである。
2 本件変更処分等の適否ないし合憲性等
(控訴人らの主張)
(一) 本件学資保険は、本件世帯が控訴人らの高校修学の費用に充てる目的で、保護費等を原資として蓄えたものであって、このような預貯金等は、後記のいわゆる補足性の原理の対象とはならず、これを収入認定した上で既に決定された生活保護費を減額する処分は、憲法二五条が保障する生存権の具体化であり権利として確定した保護受給権を否定するもので、法五六条の正当な理由があるものとはいえず、違憲、違法である。
(二) 補足性の原理の解釈適用
被控訴人福祉事務所長は、本件変更処分の前提として、法四条一項及び八条一項に基づき、本件学資保険の満期保険金を亡太郎の世帯(以下「本件世帯」という。)の収入として認定したが、本件学資保険は、本件世帯が、控訴人ら亡太郎の子弟の高校修学の費用に充てるため、支給された保護費及び既に収入認定を受けた収入(以下「保護費等」ともいう。)を節約して捻出した金員をその掛け金(保険料)として積み立てたものであって、本件学資保険の満期保険金は、法四条一項の本件世帯の最低限度の生活維持のために活用すべき「資産、能力その他あらゆるもの」(以下「四条一項の資産等」という。)又は同八条一項所定の要保護者の「金銭又は物品」(以下「八条一項の金銭等」という。)に当たらない。
(1) すべて国民は、憲法一三条により、幸福追求の権利に由来するものとして、自己決定権を保障されているが、生活保護受給者といえども例外ではなく、どのような生活を送るかは個人の自由にゆだねられている。そして、憲法二五条の具体化としての生活保護法は、すべての国民に対し、最低限度の生活を保障すると共に、その自立の助長をその目的として掲げている(法一条)が、自立助長すなわち被保護者の自主独立の内在的可能性の助長育成が図られることによって最低限度の生活保障も実質化されるものであって、両者は、人間の尊厳の原理に根ざす憲法二五条の生存権保障の理念の実現を図るという目的との関連の中で統一的に理解されるべきものである。したがって、最低限度の生活を保障するものとして支給される保護費について、これをどのように使用するかは、支給の趣旨目的に反するものでない限り、原則として、受給権者の自由にゆだねられているというべきであり、実際にも、生活を切り詰めることにより、最低限度の生活を維持しながら、保護費等の一部を貯蓄にまわすことも可能である(特に、勤労収入がある場合には、基礎控除や特別控除等の勤労控除の制度により、それだけやりくりの幅が広がる。)。また、被保護世帯の子弟の高校修学は、子どもの教育を受ける権利および親の子どもを教育する自由ないし責務として、憲法二六条によって保障されているが、さらに子どもの自立ひいては被保護世帯の自立助長に役立つものであるから、子どもの高校修学の費用に充てるため、保護費等を節約して学資保険として貯蓄することは、生活保護法の目的にもかなうものである。
(2) ところで、法四条一項は、保護の要件として、「保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他のあらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる」旨、いわゆる保護の補足性の原理について定め、さらに、これを承けて、法八条一項は、「保護は、厚生大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし、そのうち、その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うものとする」旨規定している。
しかしながら、右各規定は、資本主義制度の下における公的扶助を支える自己責任の原則を一般的に規定したものであるところ、保護費等を原資とする預貯金は、被保護者自らの資産等ではなく、国が最低生活費として保有を認めたものが形を変えたものであり、他面、最低限度の生活といっても、それぞれの世帯によって異なる多様性のあるものであるから、右各規定も、要保護者の保有するすべての資産等を最低限度の生活のために使い切った上でなければ保護が許されないとするものではなく、その文言からもうかがわれるように、多様な最低限度の生活維持のために活用できる資産等をそれに適した仕方で活用することを要求するものであり、また、それで足りるとする趣旨に解するのが相当である。
(3) そうすると、被保護者がその子弟の高校修学の費用に充てる目的のため保護費等を原資として蓄えた学資保険等の預貯金は、その積立ての経緯や目的に照らし、四条一項の資産等や八条一項の金銭等には当たらないものというべきであり、そのように解しないと、生活を切り詰めて保護費の一部を貯蓄に回した被保護者の意思を無に帰せしめ、生活保護法一条に違反しひいては憲法が保障する被保護者の自己決定権(憲法一三条)、教育を受ける権利(憲法二六条)及び生存権(憲法二五条)を侵害することとなる。
(三) 裁量権の逸脱・濫用
仮に、本件学資保険の満期保険金が法四条一項の資産等や八条一項の金銭等に当たるとしても、被控訴人福祉事務所長が本件学資保険の満期保険金を収入認定した上でした本件変更処分は、裁量権の逸脱・濫用に当たり、違憲、違法である。
すなわち、
(1) 本来、保護費等を原資とする金融資産については、前記(二)のとおり、法四条一項や八条一項の収入認定の対象となる資産等に当たるかどうかについて疑義がある一方、保護行政実務上も、例えば耐久消費財等の購入費用に充てる目的で預貯金等をする場合のように、被保護者が保護費を節約し、これを貯蓄に回すことは、単にこれが容認されているにとどまらず、被保護世帯の自立助長に役立つものとして奨励されているところであり、また、自立助長に適する場合には、資産等の保有を認め、例えば他から得られる恵与金等や保護費をもって保険料の支払に充てた生命保険等についてもこれを収入認定の対象としない扱いがされている。
(2) ところで、中卒者の大部分が高校に進学しており、したがって、高卒以上の学歴を有することが一般的である現在の就職状況の下においては、被保護世帯にとっても、子どもの高校進学は、憲法二六条が保障する教育を受ける権利にかかわる問題であるにとどまらず、前記の生存権の保障としての生活保護法の目的である被保護世帯の自立助長のためにも極めて重要な意味を有するものであるところ、本件世帯は、世帯主である亡太郎及び亡花子が病弱であって将来的にもその十分な就労が見込まれないため、世帯の自立更生のためにも子どもの高校修学が不可欠であって、自らもそのように認識し、控訴人らを含む三人の子どもの高校修学を強く希望していた世帯である。このような世帯に対する保護の実施機関のケース処遇のあり方としては、世帯自らがその子どもらの高校修学費用を準備できるよう配慮し、援助すべきものであり、実際上もそうしているのが一般的である。
(3) 高校修学費用は、保護実務上も保護の対象とされていない一方、奨学金等の制度によっては、これをまかなうのに限界があるところ、亡太郎及び亡花子は、控訴人らの高校修学の費用に充てる目的で、本件学資保険に加入したものであるが、持病の疾患を抱え、必ずしも満足に働くことができる健康状態ではなかったにもかかわらず、これを押して働く一方、日々の生活を切り詰めることによって最低限度の生活を維持しながら、国から支給される保護費の一部や収入認定された右勤労収入(なお、勤労収入については、収入認定に際し、就労に伴う経費等として、基礎控除や特別控除等の勤労控除が認められ、勤労収入がない場合に比して、それだけ手取額が増えるため、生活をやりくりする幅が広がることになる。)を本件学資保険の保険料の支払に充ててきたものである(その金額も月々わずか三〇〇〇円にすぎない。)。
(4) 以上の諸点に照らすと、本件学資保険の満期保険金を収入認定した上でした本件変更処分は、本件世帯がその自立更生のために一般に容認されている方法によって行った努力の成果を無に帰せしめるものであって、本件世帯にとって極めて酷なものであると共に実務の運用にも違背しており、裁量権の逸脱・濫用として、違憲、違法というべきである。
(被控訴人らの主張)
本件変更処分は、法二五条二項に基づき、本件返戻金を本件世帯の収入として認定した上、被控訴人福祉事務所長の裁量により従前の保護費の額を減額するものであるが、本件学資保険の満期保険金は、右収入認定の対象となるべき四条一項の資産等ないし八条一項の金銭等に当たり、また、国が定めた運用基準にも合致しており、本件変更処分には、法五六条の正当な理由がある。
(一) 補足性の原理の解釈適用
(1) 生活保護法は、生活に困窮するすべての国民に対し、最低限度の生活を保障すると共に、その自立の助長を図ることを目的としている。そして、最低限度の生活は、健康で文化的な生活水準を維持するものでなければならないところ、その内容それ自体、価値評価を含む抽象概念であり、時代とともに変化する国民の一般的な生活水準、国民感情等、種々の要素を総合考慮して決すべきものであるところから、その具体化は、厚生大臣の裁量判断にゆだねられ、法も、最低限度の生活を維持するための保護は、厚生大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とすべきものとし(八条一項)、その基準は、要保護者の年齢別、性別、世帯構成別、所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであって、かつ、これをこえないものでなければならないとしている(八条二項)。しかし、同時に、資本主義の下における社会保障制度としての公的扶助制度は、補足的な役割を果たすものであるから、法は、保護は、生活に困窮するものが、その利用し得る資産、能力その他のあらゆるものを最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる旨いわゆる保護の補足性の原則について定める(四条一項)と共に、具体的に、保護は、要保護者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うものとする旨規定している(八条一項)。さらに、法九条がいわゆる必要即応の原則について規定し、保護は、要保護者の年齢、性別、健康状態等その他個人又は世帯の実際の相異を考慮して、有効適切に行うものとするとしていることなどに照らすと、法八条一項にいう「金銭又は物品」には、その取得の経緯や要保護者の意図等のいかんを問わず、要保護者において現に保有する一切の資産や金銭等が含まれるものと解するのが相当である。
(2) これを、控訴人らが主張するように、子弟の高校修学の費用に充てるために保護費等を原資として蓄えた預貯金等を、四条一項の資産等や八条一項の金銭等に当たらないものと解すると、次のような不都合な点が生じる。
すなわち、① 保護費等によって金融資産を形成すると、その間、被保護者は、最低限度の生活を下回る生活を余儀なくされるが、これを容認することは、被保護者が保護を受けながら最低限度の生活を下回る生活を送ることを認めることになり、また、いったん最低限度の生活を下回る生活を送った以上もはやこれを回復する余地はないから、最低限度の生活を保障する法の趣旨に反する結果となる。② 保護費等によって形成された金融資産は、その原資の性質からすると、それまでに下回った最低生活の回復あるいは維持のために活用すべきであるということができても、これを最低限度の生活の含まれない子弟の高校修学の費用に充てることを認める根拠とはなり得ない。③ 新たに生活保護を受けようとする世帯に高校修学を予定している子弟がおり、学資保険等の金融資産を蓄財している場合には、その活用が求められ、その保有を継続することが許されないことと均衡を失し、法二条の無差別平等の原則に反する。④ 仮に新たに生活保護を受けようとする世帯との均衡を図るため、金融資産の保有目的を考慮すべきこととすると、その目的どおりに使用されたかどうかその使途についても問題になるところ、保護の実施機関にとっては、前者の保有目的いかんを識別すること自体に困難が伴う上、金融資産の使途が限定されていない以上、後者の使途の識別については一層の困難が伴うこととなり、不都合である。
(二) 補足性の原理の適用の例外と実施機関の裁量
(1) 前記(一)のとおり、要保護者が保有し、又は取得するすべての資産ないし収入が補足性の原理の対象となる資産ないし金銭等に当たるものと解した上、これをすべて最低限度の生活維持のために活用すべきものとすると、その資産の処分のためにかえって費用がかかったり、また、要保護者に当該資産等を取得させた者の意図やその目的に反するなど、最低限度の生活の保障と共に被保護者の自立助長を図ることとしている法の趣旨目的や社会通念に照らして、相当でない場合が生ずる。そこで、補足性の原理の適用については、その例外を認めざるを得ないが、その判断は、前記のとおり、厚生大臣の裁量判断にゆだねられている最低限度の生活との均衡を図る必要があると共に、右自立助長や社会通念という観念それ自体が一義的に明確であるとはいえないものであるところから、保護の決定及び実施に当たる行政庁の裁量判断にゆだねられているものと解するのが相当である。そして、右行政庁の裁量判断に当たっては、保護を無差別平等に行うために、し意を防止して、全国的な統一を確保する必要があるから、国は厚生事務次官通達によりその裁量基準を定め(昭和三六年四月一日付け発社第一二三号各都道府県知事指定都市市長宛厚生事務次官通達「生活保護法による保護の実施要領について」。以下、「次官通達」という。)、一定の資産について最低限度の生活のために活用しない場合(次官通達第3の1ないし5)や一定の収入として認定しない場合(収入認定除外。同第7の3の(3))を定めている。しかしながら、特例的に認められるこれらの補足性の原理の例外の場合は、要保護者の資産や収入について、これを最低限度の生活保持のために活用しないことないし収入認定除外することが、自立助長に役立つ場合であるか、又はそうすることが、社会通念から要請される場合に限られており、また、そのいずれの場合も、これらの資産や収入を最低限度の生活維持のために活用しなくとも、要保護者の生活が最低限度の生活を下回るものではないこと、すなわち最低限度の生活が確保されていることが、その前提となっているのであって、これらのことは、右例外の場合が認められる趣旨に照らしてむしろ当然のことといえる。
(2) 他方、学資保険は、貯蓄性が強く、その保有目的も限定されていないところから、一般の金融資産に当たるものというべきであるが、金融資産は、その保有自体が最低限度の生活維持あるいは自立助長に役立つものとはいえず、その保有目的が限定されない上、最低限度の生活維持のために活用することが容易である。加えて、これが特に保護費又は収入認定された収入を原資として形成されたものである場合には、その形成に際し、被保護者が最低限度の生活を下回る生活を余儀なくされたことになるのであるから、社会通念に照らしても妥当を欠くことになる。右いずれの見地からみても、金融資産、したがって、学資保険もまた、前記例外が認められる場合に当たるものとはいえない。
なお、次官通達を受けて規定された課長通達(昭和三八年四月一日付け社保第三四号各都道府県、指定都市民生主管部(局)長あて厚生省社会局保護課長通達)第3の問11によると、一定の要件を満たす場合には、被保護者が生命保険を保有することを認めている。しかし、これは、生命保険が、学資保険等とは異なり、資産形成としての性格を持つものではなく、世帯主の死亡等の危険対策としての意味を持つことから、その保有を健康で文化的な最低限度の生活の内容として容認しているにすぎず、したがって、生命保険であっても、危険対策としての意味を持たない場合、例えば、被保護者が任意にこれを解約した場合の解約返戻金や、満期保険金については、全額収入認定するか、又は法六三条に基づく返還を求める扱いがされているのであって、学資保険をこれと同視することはできない。
(3) 仮に、本件学資保険が、控訴人らの高校修学費用に当てる目的で加入し、積み立てられたものであっても(そうでないことは、後記(四)に主張するとおりである。)、生活保護法上、義務教育費とは異なり、高校修学費が生活保護の対象となっていないことからも明らかなように、高校修学は最低限度の生活の内容となっていないから、右目的を理由に保護を実施する上で、一般の金融資産と異なる扱いをすることはできない。もとより、子弟の高校修学は、被保護世帯の自立助長のために役立つものであり、そのため、生活保護行政の運用上も、最大限の配慮をし、社会の実情に相応するように数次にわたって次官通達等を改正する一方、高校修学者についていわゆる世帯内修学を認めてその生活費を保護の対象とすると共に、高校修学のための他からの恵与金等を収入認定除外にするなどの扱いをしている。しかしながら、高校修学は、最低限度の生活の内容をなすものではないのであるから、それ以上有利な扱いすることは許されず、まして、生活保護制度の上で最も優先すべき最低限度の生活維持を犠牲にして、最低限度の生活に含まれない目的のために保護費ないし収入認定された収入を蓄えるということは社会通念に照らしても是認できるものではない。
(4) 以上のとおり、本件学資保険及びその満期保険金は、次官通達が、補足性の原理の適用除外の場合として認める場合に当たらないところ、次官通達には何ら不合理な点はなく、その裁量基準は合理的であって、これに従って行われた本件変更処分も、裁量権の逸脱・濫用はなく、適法である。
(三) 本件学資保険の原資について
本件世帯は、本件学資保険に加入した昭和五一年六月ころには、他に簡易保険(保険料一〇八〇円。ただし、生活保護を受給するに際して保有することが容認されていた。)及び住友生命保険の養老保険(同一八七〇円)を保有しており、さらに、昭和五四年三月二日には、福祉事務所に無断で千代田生命の生命保険(同一万二五一五円)に加入した。その結果、本件世帯が負担すべき月々の保険料は合計一万八四六五円にのぼっているが、これは、本件世帯が右資産を保有していることを意味すると共に、他に右保険料に充てるための収入があったことを推認させるものである。
そして、本件世帯は、昭和五六年一一月二〇日から平成二年九月二〇日までの間に、本件学資保険の満期保険金以外に本件学資保険及び前記生命保険からの貸付金、解約返戻金、生存給付金及び入院給付金として合計一八一万四九六五円(右満期保険金を受け取った平成二年六月一六日までに一七三万六六八五円)を受け取っており、このうち住友生命保険の解約返戻金七二万二六三四円を除く一〇九万二三三一円については、いずれも、被控訴人福祉事務所長に収入申告がされておらず、これについては収入認定の対象とされていない。
右事実によれば、本件学資保険は、保護費又は収入認定がされた収入のみを原資とするものということはできないから、本件変更処分を違法とする控訴人らの主張は、その前提事実を欠くものであって、失当である。
(四) 本件学資保険保有の目的について
①本件学資保険は、控訴人春子を被保険者とし、同控訴人が一八歳になる年の保険加入の日に対応する日に満期保険金が支給される一八年満期のものであるところ、満期保険金が支給される時点では既に同控訴人の高校修学期間は残りわずかであり、他方、控訴人夏子においては、中学二年生であって高校進学までにまだ間があること、②亡花子は、担当のケースワーカーに対し、本件学資保険の満期保険金のうち、約一五万円を生活費に使い、残金約三〇万円については控訴人春子の就職の支度費に充てる意向を表明していたこと、③本件変更処分前には、亡花子及び亡太郎からケースワーカー等に対して控訴人らの高校修学費用を調達するために本件学資保険を保有する旨の届出がされていないことからすると、本件学資保険は、控訴人らの高校修学費用に充てることを目的とするものではないものというべきである。
したがって、本件学資保険が控訴人らの高校進学費用に充てる目的で加入されたことを前提に、本件変更処分の違法をいう控訴人らの主張も失当である。
3 被控訴人市及び同国の責任並びに控訴人らの損害
(控訴人らの主張)
(一) 被控訴人福祉事務所長の本件変更処分は、違法であり、少なくとも重大な過失によるものということができるところ、被控訴人国は、生活保護に関する事務の帰属主体であり、また、被控訴人福岡市は、東福祉事務所を設置・管理し、その費用を負担しているものであるから、同被控訴人らは、被控訴人福祉事務所長がその故意、少なくとも重過失により控訴人らに対してした本件不法行為につき国家賠償法に基づき連帯して責任を負うものである。
(二) 亡太郎及び控訴人らは、本件変更処分により、生活を切り詰め、節約を重ねてきた努力を無にされ、また、控訴人夏子の高校進学の費用を準備するために従来にもまして生活を切り詰めざるを得ない事態となり、「最低限度」の生活以下の生活を強いられ、著しい精神的苦痛を被った。特に控訴人夏子は、高校受験を前に高校進学の夢を奪われかねない事態となり、耐え難い精神的苦痛を被った。
これらの、精神的苦痛をあえて金銭的に評価すれば、亡太郎及び控訴人春子は、それぞれ五〇万円、同夏子は一〇〇万円の損害を被ったものというべきである。
なお、控訴人らは、亡太郎の死亡により、その被控訴人国及び同福岡市に対して有する損害賠償請求債権を各二分の一の割合により相続した。
(被控訴人福岡市及び同国の主張)
(一) 仮に、本件変更処分が違法であるとしても、被控訴人福祉事務所長がその違法性を認識していたと認めることは到底できず、また、本件変更処分についての裁量権の逸脱・濫用があったとしても、同被控訴人にとってそのことが容易に理解することが可能であったということはできないから、その違法性を予見すべきであったということもできず、過失があるものとはいえない。
また、被控訴人福岡市に対する請求については、生活保護に関する事務の帰属主体は被控訴人国であり、被控訴人福祉事務所長は機関委任事務としてこれを取り扱っているにすぎないから、被控訴人福岡市においてその責任を負うべきものではなく、同請求は失当である。
(二) 本件変更処分は、被控訴人らが主張する事実関係の下にされたものであり、控訴人らに慰謝されるべき精神的苦痛が発生した事実はない。
第三 証拠
証拠関係は、原審及び当審記録中の各証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。
第四 当裁判所の判断
一 争点1(本件変更処分の取消しを求める訴えの適否)について
1 訴えの利益(原告適格)について
生活困窮者は、すべて、国から保護を受ける権利(保護受給権)を有するが、生活保護は、原則として、世帯を単位としてその要否及び程度を定めるものとされており(法一〇条)、具体的な保護ないしその変更処分も、被保護世帯の各構成員に対して個別にされるものではなく、世帯主を名宛人として行われることとされている。しかしながら、これは、一般的に、被保護世帯の構成員が、世帯主と共同生活を営み、生計を共にするところから、生活の資となる保護費の支給など保護を決定、実施する上においても、世帯を単位として扱うのが相当かつ便宜であることによるものである(甲七二号証)。したがって、被保護世帯の構成員も、生活困窮者である以上、それ自体保護受給権を有するものであって、右規定もこれを否定するものではないと解すべきである。結局・世帯主は、当該世帯ないしその構成員のいわば代表として、当該処分等の名宛人となるものということができる。しかして、右処分等の効果は、その名宛人である世帯主にとどまらず、世帯の構成員全体に及ぶから、世帯主はもとより、それ以外の構成員も、その取消しを訴求する利益ないし原告適格を有するものと解するのが相当である。そうすると、亡太郎の世帯に属した控訴人らは、本件変更処分について、その取消しを訴求する原告適格を有するものというべきである(当事者間に争いがない。)。
2 訴訟承継ないし審査請求前置の要件の充足
(一) ところで、保護受給権は、被保護者自身の最低限度の生活を維持するために与えられた一身専属の権利であって、他にこれを譲渡することも(法五九条)、相続の対象とすることもできず、また、被保護者の生存中の扶助ですでに遅滞にあるものの給付を求める権利も、同様であって、当該被保護者の死亡により当然に消滅し、相続の対象とはなり得ないものである(最高裁昭和三九年(行ウ)第一四号同四二年五月二四日大法廷判決・民集二一巻五号一〇四三頁参照)。しかしながら、世帯単位でされる生活保護においては、前記1のとおり、被保護世帯の構成員が、それぞれ、保護受給権を有し、保護変更処分等を争う適格を有する一方で、右保護変更処分等の効果は、世帯全体ないしその各構成員全体に等しく及び、世帯主は、被保護世帯ないし保護受給権者のいわば代表として当該処分の名宛人となるものである以上、これに対する不服の申立てについても、世帯を代表してこれを行うことができ、また、その構成員が現に各別に不服の申立て等を行っているのでない限り、原則として、名宛人である世帯主が行った不服の申立て等は、当該世帯ないしその各構成員を代表して行ったものとして、その効果は世帯構成員全体に及ぶものと解するのが相当である。
(二) そうすると、保護変更処分の取消請求訴訟を提起した世帯主が訴訟係属中に死亡しても、これにより直ちに訴訟は終了せず、右世帯主によって代表された他の受給権者がこれを承継する(すなわち、世帯主によって代表され潜在化していた他の構成員の地位が顕在化することになる)ことができるものというべきである。また、保護変更処分の取消請求訴訟を提起するには、その前提として、当該処分についての審査請求についての裁決を経ることを要する(審査請求前置主義、法六九条)ところ、右と同様の理由により、世帯主がした審査請求及びこれに対する裁決の効果は、各構成員に及ぶから、世帯主が右裁決を経ている以上、他の受給権者である世帯構成員も、いわゆる審査請求前置の要件を充足するものというべきである(なお、審査請求前置主義の制度は、行政処分に不服のある者に、裁判所に出訴する前にまず当該行政処分の当否についてこれを是正すべき権限のある行政庁に対して再考の機会を与え、その処分を是正させ、これによって行政訴訟の提起を不必要ならしめようとするものであるが、世帯を単位とする保護ないし保護受給権の前記性質に照らすと、世帯主が審査請求前置の要件を充足する以上、他の受給権者の関係でも、その目的は達しているものというべきである。)。
3 結論
以上から、前記「第二 事案の概要」中、「二 争いのない事実等」の欄に判示のとおり、控訴人らが提起した本件変更処分の取消しを求める訴えは、控訴人ら自身としては審査請求の申立てをしておらず、したがって審査請求前置の要件を満たしていないものの、世帯主である亡太郎において審査請求前置の要件を満たしているのであるから、適法ということができる。なお、亡太郎も、控訴人らと共に本件変更処分の取消しを求める訴えを提起しているが、右のとおり、控訴人らにおいて、併合訴訟として、同内容の本件変更処分の取消しを求める訴えを提起している以上、亡太郎による右訴訟提起は、被控訴人らを代表するものではなく、自らの保護受給権の行使としてのみこれを提起したものであって、控訴人らによって訴訟承継すべき理由もその利益もないから、原審における亡太郎の死亡により、終了したものというべきである。
二 争点2(本件変更処分等の適否ないし合憲性等)について
1 本件変更処分は、被控訴人福祉事務所長が、法二五条二項に基づいて行った従前の保護費の額を減額する不利益変更処分であるが、このように、既に決定された保護を不利益に変更する処分をするについては、法五六条によって、正当な理由がなければならないとされているところ、本件変更処分は、その前提として、法四条一項ないし八条一項に基づいて本件学資保険ないしその満期保険金を本件世帯の収入として認定したことによるものである。
ところで、法は、生活保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる(四条一項)として、いわゆる補足性の原理について定め、その具体化として、保護は、厚生大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし、そのうち、その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うものとしている(八条一項)。この補足性の原理は、国が国民に対して保障する最低限度の生活及び自立の助長という生活保護法の目的(一条)、保護の無差別平等の原理(二条)及び健康で文化的な生活水準の維持を内容とする最低生活の原理(三条)と共に、生活保護法の基本原理とされている(五条)が、これは、保護実施の要件に関するものであるところ、保護は、要保護者の年齢別、性別、健康状態等その個人又は世帯の必要の相違を考慮して有効かつ適切に行うべき(九条)であって、保護を開始する場合はもとより、これを維持継続する場合にも妥当するものというべきである。したがって、既に保護を受けている被保護者が新たに資産や収入を得た場合も、法八条一項に基づき被保護者の収入として認定し、それに応じて保護費を減額するが許されることは当然のことであり、このような変更処分には、法五六条の正当な理由があるものというべきである。
しかしながら、法が、五六条により、あえて被保護者についてこれに対する不利益変更の禁止を定めた趣旨からすると、被保護者に対し補足性の原理を理由に保護費の減額処分をすることができるためには、法四条ないし八条にいう資産や収入の存在が積極的に認められる場合であることを要し、保護実施機関としては、右規定に該当するかどうかも含めてその立証責任を負うものというべきである。そこで、本件変更処分の適否は、被控訴人福祉事務所長が、本件学資保険の満期保険金を法四条一項にいう資産等や八条一項にいう金銭等に当たるとして、同条に基づいてこれを収入認定したことの適否いかんにかかることになる。
2 控訴人らは、本件において、本件学資保険は、亡太郎が、とりわけ控訴人らの高校修学費用に充てる目的で、本件世帯に支給された保護費(扶助費)ないし収入認定された収入を節約して積み立てたものである旨主張するものであるところから、まず、そのようなものとしての本件学資保険ないしその満期保険金が、法四条一項の資産等ないし八条一項の金銭等に当たるかどうかについて判断する。
(一) この点について、被控訴人らは、学資保険を含む預貯金等の金融資産が保護費等を原資とするものであっても、いったん預貯金等として積み立てられた以上、保護費等としての性格を失い、一般の金融資産と何ら変わるところがない上、保護は、その時々の要保護者の保護の要否、程度のいかんに基づいて決すべきものであり、法四条及び八条も、金融資産の原資いかんや積立ての目的等を格別区別、考慮することなく、要保護者の利用し得る資産等及び金銭等のすべてをまず最低限度の生活を維持するために活用すべきものとしているところから、本件学資保険ないしその満期保険金も、これらの資産等ないし金銭等に当たり、最低限度の生活維持に充てるべく、いわゆる収入認定の対象になる旨主張する。
しかし、本来、保護費や収入認定された収入は、国によって、被保護者の最低限度の生活を維持するために活用すべきものとして支給され、又は保有が認められたものである以上、これを原資とする預貯金は通常存在することはあり得ず、したがって、法四条及び八条の規定の適用に関しても、直接的には、このような預貯金の存在を前提とすることはできないものというべきである。また、法四条一項は、その文言上も、保護の前提として、要保護者が「その利用し得る」資産等を、その最低限度の生活を維持するために「活用する」ことを要件としているのであって、要保護者の保有し、又は取得するすべての資産、又は収入等を最低限度の生活に充てることを絶対的な要件とするものではない上、これら資産等を充てるべき対象も、法三条によると健康で文化的な生活水準を維持することができるような生活でなければならないのである。そして、当該資産等が要保護者の利用し得るものに当たるかどうか、また、これをいかにすれば健康で文化的な生活水準を維持するために活用することができるか等といったことは、その主体である要保護者との関係において相対的に決まる事項であるから、右資産等に当たるかどうかも、単にその客観的な性質による一義的に決まるものではなく、それと共に、その資産が形成されるに至った経緯やその目的、さらには客観的にうかがわれる要保護者の意思等をも総合的に考慮して決すべき問題というべきである。
もとより、被控訴人らが主張するように、要保護者の保有する資産等が法四条一項にいう資産等に当たる場合に、実際にこれを最低限度の生活を営むために活用させるべきかどうか、すなわち収入認定すべきかどうかは、保護政策と絡む問題であって、その決定は、基本的には、これを実施する国ないし保護実施機関の裁量に属するということができるが、その前提としての当該資産が収入認定の対象としての資産等に当たるかどうかはやはりこれとは区別されるべき法律解釈に係る問題といわざるを得ない。
ところで、いったん収入認定された収入や支給された保護費は、最低限度の生活を維持するために用いることが前提となっており、保護実施機関がそれ自体を再度の収入認定の対象とすることは許されず、したがって、法四条一項の資産等や、八条一項の金銭等に当たらないものというべきであるが、例えば、生活扶助費は、原則として一か月を限度として前渡されることとされているため(三一条二項)、右期間経過後は時の経過と共に、このような保護費としての生活が希薄になり、また、これを貯蓄することによっても、同様の面のあることを否定することができない。しかしながら、法も、保護費等を一定の期間内に使い切ることまでは要求しておらず、被保護者が、使用を留保した保護費等をその支給の趣旨目的に沿う目的を設定して貯蓄した場合には、これによって、なお、保護費等としての性格を失うものではないと解すべきである。
もっとも、前記のとおり、生活保護は、要保護者がその利用し得る資産等を最低限度の生活維持のために活用することを要件として行われ(四条一項)、その程度も、その者の金銭等によっては、最低限度の生活を満たすことのできない不足分を補う程度において行うもの(八条一、二項)とされているほか、七つの保護の種類やそれぞれについて保護の対象となる事項が定められている(一一条ないし一八条)上、実施期間において、要保護者の資産状態等の調査を行うことができる(二八条)ほか、被保護者の生活の維持、向上その他保護の目的達成に必要な指導、指示をすることができ(二七条一項)、被保護者はこれに従わなければならず(六二条一項後段)、これに違反した場合には、保護の変更、停止又は廃止を受けるもの(六二条三項)とされている。そこで、被保護者が、最低限度の生活を維持するために使用すべきものとして支給された保護費等を預貯金等として蓄積することが許されるかどうかが問題となる。しかしながら、法四条及び八条は、国が保護を実施する上での国に対する行為規範であり、保護の内容も、医療扶助の場合を除き使途が限定されない金銭の給付を原則とするものである(三〇条ないし三七条)ところ、金銭は価値そのものであってその占有の移転と共に所有権が移転し、直ちに被保護者においてこれを自由に処分し得る状態となる。のみならず、憲法二五条の生存権保障を具体化するものとしての生活保護制度は、被保護者に人間の尊厳にふさわしい生活を保障することを目的としているものであるところ、人間の尊厳にふさわしい生活の根本は、人が自らの生き方ないし生活を自ら決するところにあるのであるから、被保護者は収入認定された収入はもとより、支給された保護費についても、最低限度の生活保障及び自立助長といった生活保護法の目的から逸脱しない限り、これを自由に使用することができるものというべきである。そうである以上、しかも、実際の生活にも幅があり、支出の節約を図り最低限度の生活を維持しながら保護費等の一部を貯蓄に回すことが可能である(法六〇条は、被保護者は、常に、能力に応じて勤労に励み、支出の節約を図り、その他生活の維持向上に努めなければならないとする。)ことをも考慮すると、被保護者において、支給された保護費等を直ちに費消せず、将来の使用に備えてその一部を貯蓄に回すことも、それが国ないし保護実施機関によって最低限度の生活維持のために使用すべきものとして支給ないし保有が認められたものであるとの一事をもって、許されないものと速断することはできない。
本来、保護費が被保護者においてその時々の最低限度の生活維持のために使うべきものであるという観点からみると、これを蓄えた預貯金等は、被保護者がその最低限度の生活を犠牲にした努力の結果という面を有すると共に、それは被保護者が右犠牲を払ってまでも達成しようとした将来の目的に対する価値評価の高さないしその実現に向けた意欲の大きさの現れとみることができるから、保護の実施機関が、このような預貯金を収入認定の対象とすることは、被保護者からいったん下回った最低限度の生活を回復すべき機会を失わせ、右犠牲による成果を無に帰せしめると共に、被保護者の価値評価を否定するものであって、被保護者に対して過酷なものといわざるを得ないところ、右収入認定は、このような性質を不可避的に内包するものである。
そして、そもそも、法が、補足性の原理について定め、これを保護実施の要件としたのは、公的扶助といえども、資本主義制度下での社会保障制度にあっては、まず自らの責任において事態に対処すべしとする自己責任の原則がその基礎にあるからであり、また、保護を実施する上において、財政的な裏付けが不可欠であるところから、一般の国民感情をも考慮する必要があるからであるが、被保護者が支給された保護費等をいったん貯蓄した上でこれを自立更生のために使用しても、これによって国や保護実施機関に対して新たな経済的負担を求めるものではない以上、自己責任の原則に反するものでないのはもとより、国民感情の観点からみても、これを排斥すべきいわれはないのである。
以上の諸点をかれこれ勘案すると、保護費等を原資とする預貯金は、その貯蓄の目的や態様(金額を含む。)等に照らして、要保護者の最低限度の生活の保障とその自立助長を図ることを目的とする生活保護法の趣旨目的を逸脱するようなものではなく、かつ、一般の国民感情に照らしても違和感を覚えるようなものでない限り、収入認定の対象となるべき被保護者の資産等には当たらないものというべきである。
なお、被保護者が保有する預貯金等の金融資産は、そのものとしては、収入認定の対象となる資産等に当たるとしても、これが保護受給中に貯蓄されたものである場合は、その原資についてこれが他からの収入によることが明確であるなどの事情が認められない限り、事実上、保護費ないし収入認定された収入を原資とするものと推定すべきである。
(二) そこで、被保護世帯がその子弟の高校修学の費用に充てるため、いわゆる学資保険等として、保護費等を節約して積み立てることが、前記目的に反するものであるかどうかについて判断する。
(1) 生活保護法上、被保護世帯の子弟の義務教育に伴う費用は、教育扶助として保護の対象とされている(一一条一項二号、一三条)が、高校修学に要する費用は、保護の対象とされておらず、したがって、高校修学は、最低限度の生活に含まれるものではないというべきである(この点、当事者間に争いがない。)。これは、法が、義務教育については、親に子どもを修学させる義務を負わせると共に授業料は徴収しないこととし(憲法二六条二項、教育基本法四条)、また、学齢児の就業を原則として禁止している(労働基準法五六条)のに対し、高校教育については、その修学者が稼働年齢に達していることとも対応するものである。
ところで、中学校卒業者の高校進学率は、年々上昇の傾向にあり、その全国平均は、生活保護法が制定された昭和二五年度に42.5パーセントであったものが、後記のいわゆる世帯内修学が認められた昭和三六年度には62.3パーセント、亡太郎が本件学資保険に加入した昭和五一年度には92.6パーセント、亡太郎の長男一郎が高校に入学した昭和六〇年度には93.8パーセント、本件処分がされた平成二年度には94.4パーセントにそれぞれ達し、また、福岡市内における高校の高校進学率も、現在、九五パーセントを超える状況にある(甲三〇、八四号証、乙一一号証、原審における証人梅崎勝、同畑瀬廣行)。
右進学率の変化に対応して、被保護世帯の子弟の高校修学についての行政実務の運用については変遷がみられる。すなわち、当初は、子弟(修学者)の生計を当該保護世帯から分離するいわゆる世帯分離によって高校修学を容認する方法がとられたため、教育費(高校修学の費用)だけでなく修学者の生活費も保護の対象とならず、高校に修学するためには、自ら又は他からの援助によってこれらの費用をまかなうことができる場合に限られた。その後、高校修学が被保護世帯の自立助長に資するとの観点から、昭和三六年以降、世帯内修学、すなわち子弟が被保護世帯と生計を共にし、したがって、生活費等について保護を受けながら高校修学を認める運用がされるようになり、その対象となる学校の範囲も順次拡大されていった結果、昭和四五年にはすべての高校について、さらに昭和五一年には高校に準ずる各種学校についてそれぞれ世帯内修学が一般的に認められるようになった。また、教育費調達先の要件も緩和され、修学費用に充てる目的で他から修学者に対して恵与された収入等については、これを最低限度の生活を維持すべき収入として扱わない旨の収入認定除外の運用がされるようになったため、子どもの稼働能力を活用しなくとも、被保護世帯の子弟が高校に進学することができる余地が広がった(甲七二、七三、七八、八三号証、乙一、二、八、一〇、一六号証、原審における証人松尾栄二、同畑瀬廣行)。
しかし、高校修学のためには、学費等の学校教育費のほか、制服制帽等の購入費や通学費などの間接的な経費を要する(これらの経費が生活保護の対象とされていないことはいうまでもない。)上、入学に際しては、受験料、入学申込金、施設費及びその他の校納金等のまとまった金員を要し、特に私立高校に修学する場合には、その金額も多額であるところ、これらの費用に充てるため各種の奨学金や貸付金の制度を利用するにしても、その対象者が成績優秀者に限られていたり、借受けについて保証人を要するなどその要件が厳格であるほか、金額の点でも、また、貸付け時期の点でも、一般の被保護世帯が、これらの制度を活用することによってその子弟を高校に修学させるのは、事実上、困難な状況にある(甲三一、三二、三五、三六、三八号証、四〇ないし四三号証、四四号証の3、4、七八、八三、八五、一〇三、一〇九、一一三、一一四号証、乙一一号証、原審における証人梅崎勝、同畑瀬廣行)。
なお、控訴人春子の高校修学に要した費用は、入学時に、受験料、入学申込金、施設費及び諸費用(制服代、教科書代、体操服代等)約二五万円であり、入学後年額四二万四三二〇円(授業料、生徒会費、交友会費、後援会費、家庭科実習費、修学旅行積立金及び交通費)であった(乙一三号証、弁論の全趣旨)。
(2) もとより、生活保護制度の中において子どもの高校修学をどのように位置付けるかは、子どもの教育を受ける権利及びこれと対応関係にある親の子どもに対する教育を受けさせる義務や、子どもの稼働能力の活用等の問題とも密接に関連するが、前記(1)の高校進学率の推移等に照らすと、高校修学は、現行の生活保護制度が発足した当時に比してその社会的な意味合いが変容し、いまや、一般的な家庭における生活の一部を構成しているということができるのみならず、このように高水準の高校進学率は、とりもなおさず、就職する子どもの学歴が高校卒業以上であるのが一般的であることを意味し、子どもの高校修学は、前記行政実務の運用の変遷からもうかがわれるように、子どもの自立ひいては当該被保護世帯の自立助長にも深くかかわるものであることが明らかである。そして、高校修学費用についての手当てが、現行の奨学金等の制度によっては必ずしも十分でないこと前記のとおりであるとすれば、被保護世帯としては、それ以外の何らかの手段を自ら講ずるほかなく、子弟の高校修学の費用に充てるため、保護費等を節約して、これを学資保険等の預貯金として蓄えることは、要保護者(被保護世帯)の最低限度の生活保障とその自立助長を目的とする生活保護法の趣旨目的から決して逸脱するものではないものというべきである。
3 本件学資保険及びその満期保険金の原資について
(一) 証拠(甲一号証の1ないし3、二ないし六号証、六一号証の1ないし62、六二号証、六三号証の1ないし24、六四号証の1ないし17、六五号証の1ないし177、六六号証、六七号証の1ないし6、六八、七〇号証、一一〇号証の1、2、一一五号証の1ないし3、一一六号証の1、2、一二六、一四三号証、乙一七号証、一八号証の1、2、一九号証、原審における証人梅崎勝、同控訴人甲野夏子、原審及び当審における控訴人甲野春子)及び弁論の全趣旨によると、以下の事実が認められる。
(1) 控訴人らの父である亡太郎(昭和六年二月二四日生)は、昭和四三年五月二二日妻亡花子(昭和一七年二月一三日生)と婚姻し、同四四年八月一四日長男一郎、同四七年一一月二一日長女控訴人春子、同五一年一二月二七日控訴人夏子を儲けた。亡太郎は、原審訴訟係属中の平成五年一月二一日死亡し、亡花子も、平成三年二月ころ後記持病の貧血により外出中に倒れ、敗血症のため、同年三月一〇日、死亡した。
一郎及び控訴人らは、それぞれ、地元の小中学校を卒業後、一郎においては昭和六〇年四月、控訴人春子においては昭和六三年四月、いずれも福岡市内にある同じ私立高校に進学したが、一郎は、二年留年して平成二年三月に高校卒業と同時に就職して同年四月一日付けで本件世帯から転出し、控訴人春子は、平成三年三月高校卒業後、亡花子の死亡のため内定していた他県での就職を断念して、福岡市内で就職した。また、控訴人夏子は、平成四年四月に福岡市内の私立高校に進学したが、平成五年六月、右高校を中途退学し、以降、福岡市内で就職して稼働している。
(2) 亡太郎は、築造されたコンクリート製建築物等の型枠をはずしたあとの出張り等を剥がしとっていく「はつり」を主な仕事とする日雇職人であったが、常時補聴器を必要とするほどの難聴の障害を抱えてたため(そのため障害者手帳の交付を受けていた。)賃金が安く、建築現場等を回る仕事のため就労の機会が安定しなかった上、糖尿病や肝臓病の持病により入退院を繰り返していたこともあって、その収入は限られたものであった。なお、亡太郎は、右疾患のほか、突然病的に眠り込んでしまう原因不明の疾患にもかかっていた。
また、亡花子も、貧血、神経性胃炎、慢性気管支炎等の持病を抱えていたが、控訴人らが幼小のころは、食料品店でパートで働いたり、内職の仕事(一個当たり三五〇円のこんぶ結び)などをしたものの、勤務中貧血で倒れるなど、病弱で就労できる状態にはなかった。
(3) 亡太郎は、昭和五〇年六月、前記突然病的に眠り込んでしまう原因不明の疾患が原因で、バイクを運転中交通事故に遭い、その際に負った傷害の後遺症の影響や折からの不況のため職を失い、収入を得ることができなくなったため、同年八月六日、生活保護受給の申請をしたところ、被控訴人福祉事務所長は、同年九月二三日、本件世帯について右申請日にさかのぼって保護開始の決定をした。本件世帯は、それ以降、生活扶助や住宅扶助のほか、一郎や控訴人らの義務教育期間中は教育扶助について生活保護を受けることとなった(ただし、昭和五〇年八月分は医療扶助のみ受給した。)が、亡太郎は、保護受給後も、ある程度体調が回復すると仕事に復帰したものの、仕事の効率も悪く従来の収入額を得るまでには至らなかった。亡太郎及び亡花子らは、それぞれ得た収入については所定の手続に従って申告をし、収入認定を受けたが、こうして収入認定された本件世帯の収入は、亡太郎の就労によるものとわずかな亡花子の内職等によるもののほかは、児童扶養手当及び亡太郎の交通事故による慰謝料の一部と福祉事務所の指示によって保護開始当初から昭和五四年四月まで姉夫婦によって交付された月額五〇〇〇円の援助等があるにとどまった。
なお、福祉事務所が算定した本件世帯の基準額は、例えば平成元年四月一日認定分が合計二三万六一二〇円(生活扶助費二二万二〇四〇円、住宅扶助費九九〇〇円、教育扶助費四一八〇円)であるところ、就労収入は九万七五〇〇円であるがそのうち二万二九四〇円が就労に伴う基礎控除として除外されたため、収入認定された収入は七万四五六〇円であり、結局、右基準額からこれを控除した合計一六万一五六〇円(うち生活扶助費一四万七四八〇円)が保護費として支給された。
(4) 本件世帯の生活実態
本件世帯が被保護世帯となって以降、亡太郎の就労による収入は原則として同人が管理する一方、支給された生活扶助費等は、全額、亡花子がこれを受け取って生活費等に充て、不足する分を亡太郎に請求した。亡花子は、家計簿をつけて収入の計画的な支出に心がけ、月初めに保護費が支給されると、まず、これから水道光熱費等の公共料金、教育費、米代及び本件学資保険の掛け金等に充てる金額を区分して確保した上、残余を食料品や衣料品等の購入費等に充てた。そして、食料品や衣料品等の購入に当たっても、安売り店やスーパー等を利用し、また、知人と共同で安い品物を購入して分け合うなど節約に努めた。本件世帯の生活は、極めて質素であり、子どもらを遊びに連れて行くなど一般家庭にみられるような楽しみの機会も少なかった。
しかし、特に、亡花子は、その中学校時代、貧困のため修学旅行にも参加することができなかったなど到底恵まれたとはいえない学校生活を送った自らの経験から、自分の子どもには不自由をさせたくないとの思いが強く、一郎及び控訴人らの修学には特に意を用い、これに必要な支出を惜しまず、また、子ども育成会やPTAの活動にもむしろ積極的に参加した。
(5) 本件学資保険の加入等
亡太郎は、長男一郎が小学校に入学した年の昭和五一年六月一七日、三歳の控訴人春子のため、本件学資保険(契約者亡太郎、被保険者控訴人春子、受取人亡花子、満期保険金五〇万円、保険料月額三〇〇〇円、名称簡易保険全期間払込み一八歳満期学資保険)に加入した。当時、控訴人夏子は生まれておらず、同年一二月二七日に出生した。また、亡太郎は、亡花子と婚姻する前の昭和四二年六月二日、住友生命保険(満期平成九年六月一日、満期保険料五〇万円、死亡保険金一〇〇万円、保険料当初月額一九〇〇円、昭和六二年四月以降一八七〇円)に加入していたほか、控訴人春子が小学校に入学した年の昭和五四年三月二日、自らの病弱を案じ、千代田生命保険(被保険者亡太郎、受取人亡花子、普通死亡保障額一〇〇〇万円、基本保険金額一〇〇万円、六〇歳に達するまでの保険料月額一万二五一五円)に加入した。なお、千代田生命保険に加入した当時の亡太郎は、平均して一か月一五日以上にわたって就労し、これによる収入が比較的多かったため、収入認定された収入や支給された保護費以外に就労に伴う経費として認められた基礎控除や特別控除による金額も少なくなく、その金額だけでも、本件学資保険やその他の生命保険の保険料をまかなうことが可能な状況であった。
なお、亡太郎は、本件生活保護受給の申請の際、前記住友生命保険のほかさらに一口の生命保険に加入している旨の届出をしているが、その詳細は不明である。
(6) 本件学資保険等を担保とする借受け等
本件世帯は、子どもらが成長するにつれて、出費もかさむようになり、亡太郎は、長男一郎が高校に、また、控訴人春子が中学にそれぞれ進学した昭和六〇年四月以降、一郎及び控訴人春子の高校進学費用に充てるため、本件学資保険及び前記各生命保険を担保に金員を借り受けるなどした。すなわち、亡太郎は、昭和六〇年五月二日に千代田生命保険から一八万六一〇〇円、同年六月二五日住友生命保険から九万九八〇〇円、本件学資保険から昭和六三年三月七日二〇万円、同月一四日一〇万三一五一円、同月三〇日住友生命保険から一〇万円をそれぞれ借り受け、昭和六三年七月一八日、控訴人春子の高校進学(昭和六三年四月入学)に伴うお祝い一時金として本件学資保険から五万円の支給を受けた。なお、亡太郎は、昭和五六年一一月ころ、再び交通事故に遭い、千代田生命保険から、入院給付金として、同年一一月二〇日二三万円、同五七年三月二四日四万五〇〇〇円の支払を受けた。
ところで、本件学資保険及び前記千代田生命保険への加入は、亡太郎が被控訴人福祉事務所長に無届けで行ったものであるところ、平成元年一〇月ころこれが同被控訴人の知るところとなり(ただし、本件学資保険の保有が発覚したのは、同二年一月のことである。)、亡太郎は、福祉事務所から、亡太郎にとって有利な千代田生命保険のみを残し、住友生命保険及び本件学資保険を解約するよう指導指示を受けた。そこで、亡太郎は、結局、住友生命保険を解約し、平成二年四月九日ころ、その解約返戻金七二万二六三四円を受領した。また、亡花子は、同年六月二九日、本件学資保険の満期が到来したため、その受取人として、その満期保険金等から前記借受金残金等を控除した四四万九八〇七円の本件返戻金の支払を受けた。
(二) 以上に認定事実、とりわけ、亡太郎及び亡花子が病気を抱え十分な労働能力を有しなかったこと、本件世帯が生活保護を受給するようになってからも、亡太郎らは就労したが、その就労収入等については所定の手続により逐一申告していること、本件世帯の質素な生活実態、亡花子の子どもらの高校修学に対するかねてからの希望やその対応、他方で、特に亡太郎の勤労収入に対する基礎控除や特別控除等の勤労控除により、本件学資保険やその他の保険の保険料を捻出することが可能であったこと等の事情を勘案すると、本件世帯は生活保護を受けるようになって以降、専ら収入認定された収入(勤労控除の金額を含む)及び生活保護費のみを生活の資としたものであり、本件学資保険の保険料もこれを原資とするものと認めるのが相当である。
この点、被控訴人らは、亡太郎において前記各保険から多額の借入れをしており、このような収入も本件学資保険の保険料に充てられたものであるなどとして、本件学資保険ないしその満期保険金は、保護費等を原資とするものではない旨主張する。確かに、亡太郎に被控訴人ら主張の借入れがあったことは、前記認定のとおりであるが、これらの借入れがそのまま本件学資保険の保険料の支払に充てられたことを認めるに足りる的確な証拠がない上、これらの借入れが月々の保険料の納付を前提に将来支払われるべき保険金を担保としたものであることが明らかであり、また、そのいずれも融資であってその返済を要するものであるところ、右保険料の納付に加えて右返済金の支払が、収入認定された収入及び支給された生活保護費をもって充てられたものである(他に格別の収入があったことを認めるに足りる証拠はない。)以上、右借入金の一部が本件学資保険の保険料の支払に充てられたとしても、全体として、本件学資保険ないしその満期保険金は、右収入認定された収入及び支給された生活保護費を原資とするものということができるのであって、前記認定判断を左右するものではない。
4 本件学資保険加入の目的等について
(一) いわゆる学資保険は、郵政省を事業主体とし、子どもを被保険者、親を契約者とする養老保険の一種であって、加入年齢は、子ども零歳から一二歳、親二〇歳から五〇歳、保険金額は五〇万円から七〇〇万円までであり、種類として一五歳満期コースと一八歳満期コースに分かれ、一八歳満期コースでは子どもの一五歳の高校入学時に、保険金の一割に当たる生存保険金(お祝い金)が支払われる仕組みになっている。子どもの死亡や第一級後遺障害に対しては、それぞれ死亡保険金や重度障害保険金が支払われるが、親の死亡等に対してはその後の保険料の支払が免除されるにとどまり、満期には満期保険金と配当金が支払われ、これを子どもの進学費用に充てることになる。したがって、学資保険は、親の万一の場合に備えながら子どもの保障と教育費を準備することを目的とするものであり、他の子ども保険等と比較すると、親に対する保障性よりも、貯蓄性を重視した保険とされている。(甲五三号証、弁論の全趣旨)
ところで、本件学資保険は、亡太郎が、昭和五一年六月一七日、控訴人春子の三歳の時に同人を被保険者として加入した一八歳満期の学資保険であり、その高校入学時の昭和六三年七月にお祝い一時金(生存保険金)として五万円の給付を受けているほか、その入学直前の本件学資保険を担保に金員を借り受けていること、その加入は、長男一郎の小学校入学直後のことであるのみならず、その時点で、既に亡花子が控訴人夏子(同年一二月二七日生)を懐妊し、その出産を約半年後に控えていたこと、特に亡花子は自らが不遇な学校生活を送ったため、生活を切り詰めて節約し、控訴人ら子どもの修学(特に高校進学)を最優先に考えていたこと、控訴人らは、高校卒業又は高校中退後いずれも就職し、さらに上級の学校には進学していないこと前記認定のとおりであって、これらの事実に、前記のとおり、一般に学資保険が貯蓄性のある養老保険の一種ではあっても、その本来の目的が子どもの教育費を準備することにある上、本件学資保険は控訴人春子において一八歳すなわち高校三年生になった年に満期保険金が支給されるものである一方、控訴人夏子も中学卒業を控えていたこと、さらに原審における証人梅崎勝の証言及び同控訴人らの供述を併せて考慮すると、本件学資保険は、被保険者である控訴人春子にとどまらず同夏子の高校修学の費用に充てることをも目的として加入したものと認めるのが相当である。
なお、被保険者らは、① 本件学資保険の満期保険金の支払時期が、控訴人春子においては高校三年生の時であってその高校修学のためには遅すぎる一方、同夏子においては中学二年生であってその高校修学のためには早すぎること、② 現に亡太郎らは支給された本件学資保険の満期保険金のうち一五万円を生活費に充てたほか、残金についても控訴人春子の就職の支度金に充てる意向を有していたこと、③ 本件変更処分以前に亡太郎等からケースワーカーに対して控訴人らの高校修学費用を調達するために本件学資保険を保有する旨の申出がされていないことなどを理由として、本件学資保険は、控訴人らの高校修学費用に充てることを目的として加入されたものではない旨主張する。しかし、①の点については、確かに、控訴人春子及び同夏子をそれぞれ被保険者とする一五年満期の学資保険に加入すれば、その各満期保険金をそれぞれの高校修学の費用に充てることができ、その目的を達成するのに効果的であったということができる。しかし、そのためには、二倍の保険料を要するところ、本件世帯は、自立更正のため三人の子どもを高校に進学させることを最優先に考えながら、生活保護費等を節約することによってしかその資金を捻出できる経済力がなく、一家の支えとなるべき亡太郎及び亡花子が病弱等のため就労ができず、将来にわたってもこのような状態が続くことが懸念された世帯であったことは前判示のとおりである。そうであれば、世帯主である亡太郎が、少ない資金をより効果的に生かすため、当時三歳の控訴人春子を被保険者として、毎月の保険料の最も少ない(したがって、満期保険金額の最も少ない)一八年満期の本件学資保険に加入し、これを同控訴人の高校修学のために活用する(現に、亡太郎は、控訴人春子の高校入学に際して、本件学資保険からお祝い金の支給を受けているほか、これを担保に借入れをしている。)一方、併せて、約半年後に生まれてくる控訴人夏子の高校修学のためにもその満期保険金を活用することを考えることは合理的かつ当然のことであって、本件世帯もそのように考えたものと推認することができる。また、②の点については、現実の生活は、予算を計画どおり取り崩すことによって営まれるものでなく、足らざるところを補い合い、相互に融通しながら成り立っているのが通常であるから、本件世帯が控訴人らの高校修学費用に充てる計画を立てていた本件学資保険の満期保険金を生活費等に流用しても、これによって、本件学資保険積立ての目的が変容を来すものではない。なお、③の点は、単なる一事情にすぎず、本件学資保険加入の目的が高校修学費用に充てるためであったことを否定する根拠とはならない。よって、本件学資保険加入の目的についての被控訴人らの主張は失当である。
(二) 以上からすると、本件学資保険ないしその満期保険金は、その積立ての目的及び経緯はもとより、その月々の保険料の額及び満期保険金の額も、現に控訴人春子の高校修学のために要した費用の額との対比によっても、一般の国民感情に照らして違和感を覚えるようなものであるとは到底いえない。
5 結論
よって、本件学資保険の満期保険金は、収入認定の対象となるべき収入ないし資産等に当たらないものというべきところ、これを当たるものとして従前の保護費を減額した本件変更処分は、法五六条にいう正当な理由があるものとはいえず、違法であって、取消しを免れない。
三 争点3(被控訴人市及び同国の責任並びに控訴人らの損害)について
国や地方公共団体の公権力の行使に当たる公務員が職務を行うについて違法に他人に損害を加えた場合であっても、国や地方公共団体が損害賠償の責(国家賠償責任)を負うためには、当該公務員について故意又は過失があることを要する(国家賠償法一条)ところ、本件変更処分のように、公務員が積極的に公権力の行使としての行政処分を行う場合、通常、これにより私人の権利利益を侵害することになるから、権利の侵害の結果を予見しただけでは右故意、過失があったものとはいえず、これが違法であることを認識し、又は認識することが可能であったことをも要すると解すべきである。そこで、被控訴人福祉事務所長が本件変更処分をするにつき、これが違法であることを認識し、又は認識することが可能であったかどうかについて判断する。
本件変更処分は、被控訴人福祉事務所長が、同国の同福岡市に対する機関委任事務の実施機関として、次官通達等国の定めた裁量基準に基づいて行ったものであるが、証拠(甲七一ないし七三号証、七六、七九、九〇、一三二、一三五号証、乙一ないし三号証、九号証の1、2、一〇、一四、一五、二四、二五号証、原審における証人松尾栄二、同畑瀬廣行)及び弁論の全趣旨によると、次官通達には、補足性の原理の適用の例外として、一定の資産について最低限度の生活維持のために活用することを求めない場合(次官通達第3の1ないし5)や一定の収入についてこれを収入として認定しない場合(収入認定除外。同第7の3の(3))を定めているところ、預貯金等のいわゆる金融資産は、このような例外的な場合に含まれておらず、また、これら例外的な扱いの対象となる資産ないし収入について、その原資が保護費等であるかどうかによる区別をしていないこと、次官通達は、昭和三六年四月一日に発せられたものであるが、それ以降、保護の実施機関は、この次官通達に依拠して保護を実施してきており、保護費ないし収入認定された収入を原資とする預貯金等であっても、これを収入認定除外しないのが従前の一般的な実務の運用であることが認められ、この認定に反する原審における証人梅崎勝の証言並びに当審における証人中川健太郎の証言及びその供述書(甲一二七号証)は、前掲各証拠や次官通達の内容及びその性質に照らしてにわかに採用することができない。そして、このような補足性の原理の適用についての次官通達、したがって、実務の運用は、被控訴人らの主張するように、法四条一項の資産等や八条一項の金銭等の解釈として、要保護者が保有し、又は取得する一切の財産及び収入がこれに含まれ、その原資によって区別されるものではないとの見解に立つものであることはいうまでもないが、証拠(甲五六、五七、七六号証)及び弁論の全趣旨によると、本件変更処分後である平成五年四月二三日、保護費を原資とする預貯金を収入認定した上で保護費を減額した保護変更処分について被保護者がその取消しを求めた訴訟(秋田地方裁判所平成二年(行ウ)第一号保護変更処分取消等請求事件)において、その請求を認容する判決が言い渡され、これが確定したものの、それまでは、右行政解釈を否定するような司法判断等がされることもなかったことが認められる。
以上の行政解釈や、その具体化としての実務の運用及びその推移等に加えて、本来、要保護者の最低限度の生活維持のために使用すべきものとして支給される保護費等を被保護者が預貯金等として蓄えることを認容すべきものとすることは、要保護者の最低限度の生活保障をその責務とする国ないし保護実施機関に対し、難きを強いる面のあることをも併せて考慮すると、被控訴人福祉事務所長が、本件変更処分を行うに当たって、本件学資保険の満期保険金が収入認定の対象となる収入等に当たるとした上、具体的にも収入認定除外の対象にならないと判断したことは無理からぬものであって、本件変更処分が違法であることを認識することが可能であったということもできない。
よって、被控訴人福祉事務所長において、本件変更処分を行うにつき故意又は過失があったものと認めることはできないから、控訴人らの損害賠償(国家賠償)請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。
四 以上の次第で、控訴人らの請求のうち、被控訴人福祉事務所長に対する本件変更処分の取消請求は理由がある(ただし、亡太郎の訴訟提起に基づく本件変更処分の取消請求については、亡太郎の死亡により、訴訟が終了した。)が、その余の被控訴人らに対する損害賠償請求はいずれも理由がないところ、原判決中、控訴人らが提起した本件変更処分の取消請求に係る訴えを却下した部分は失当であるからこれを取り消すとともに、原審において、その実体審理が尽くされ、右損害賠償請求との関連で実質上その実体判断が示されているとみることができるから、事件を原審に差し戻すことなく、当審において本件変更処分を取り消し、原判決その余の部分は相当であって、被控訴人福祉事務所長に対するその余の控訴(訴訟終了宣言に係るもの)及びその余の被控訴人らに対する控訴はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民訴法六七条、六五条、六四条、六一条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官山口忍 裁判官西謙二 裁判官宮良允通は転補につき署名捺印することができない。裁判長裁判官山口忍)